生前贈与の「110万円」は廃止された? ― 7年ルールと新しい使い分け
- 尚生 町田
- 7月23日
- 読了時間: 5分
「生前贈与の110万円の非課税は、もう廃止されたんですよね?」
最近、こうしたご質問を本当によくいただきます。テレビやSNSで「生前贈与が使えなくなる」という話題が流れた時期があり、不安に感じた方が多いようです。
先に結論をお伝えします。年110万円までの贈与が非課税になる仕組み(暦年贈与の基礎控除)は、廃止されていません(2026年7月時点)。
ただし、まわりのルールが変わりました。「昔聞いたやり方」のまま続けていると、思っていたほど相続税の対策になっていなかった——ということが起こり得ます。何がどう変わったのか、要点だけやさしく整理します。
※この記事の税金の取り扱いは2026年7月時点のものです。制度は改正されますし、適用できるかは個別の状況によります。実際の判断は、必ず税理士にご確認ください。
変わった点①:亡くなる前の贈与を「相続財産に戻す」期間が延びた
相続税には、亡くなる直前の贈与は相続財産に足し戻して計算するというルールがあります(生前贈与加算、いわゆる「持ち戻し」)。
この足し戻しの対象期間が、以前の3年から7年へと延長されました。現在は経過措置の途中で、何年分が足し戻されるかは相続の時期によって決まり、段階的にフルの7年分へと延びていきます。
これが意味するのは、「相続が近づいてからの駆け込み贈与」が効きにくくなった、ということです。
逆に言えば、早くから・長く続けた贈与ほど効果が残る構図がいっそう強まりました。相続対策全般に言える「早いほど打ち手が増える」の原則が、贈与ではさらにはっきりした形です。
なお、この足し戻しは相続で財産を受け取る人への贈与が対象の中心です。たとえば相続人でないお孫さんへの贈与は、足し戻しの対象にならないケースが多いとされています(遺言で財産を受け取る場合や生命保険金を受け取る場合など、対象になる例外もあります)。
変わった点②:もうひとつの制度に「新しい非課税枠」ができた
生前贈与には、暦年贈与とは別に「相続時精算課税」という制度があります。まとまった財産を先に渡しやすくする代わりに、相続のときに精算する仕組みで、以前は「一度選ぶと戻れないうえ、少額の贈与でも申告が必要」と、正直使いにくい制度でした。
その相続時精算課税に、年110万円までの新しい基礎控除ができました。この範囲内の贈与は申告が不要で、相続財産への足し戻しもされません(制度の利用には事前の届出などの要件があります)。
つまり今は、「110万円の枠」が2つの制度にそれぞれ存在する状態です。どちらの枠を使うかで、相続時の扱いが変わります。
どう使い分ける?(考え方の軸だけ)
個別の有利不利は財産の内容・ご年齢・家族構成で変わるため、ここでは考え方の軸だけお伝えします。
・時間を味方にできる方(贈与を早くから長く続けられる)→ 従来どおり暦年贈与の積み重ねが基本線。
・足し戻しの期間が気になる方(ご高齢の親からの贈与など)→ 精算課税の新しい枠が有利になる場面があります。
・相続人でないお孫さんなどへの贈与 → 足し戻しの対象外になりやすく、選択肢として検討価値があります(例外があるため個別にご確認ください)。
ひとつ大きな注意があります。相続時精算課税は、一度選択すると暦年贈与には戻れません。
「なんとなく良さそうだから」で選ぶと取り返しがつかないため、実行の前に試算して比べることを強くおすすめします。
「現金で手渡しすればばれない」は誤解です
この話題で必ず出てくるのが、「銀行を通さず現金で渡せばわからないのでは?」というご質問です。
はっきりお伝えします。これは誤解であり、おすすめできません。
・税務調査では、亡くなった方やご家族の預金の動きを過去にさかのぼって確認できます。まとまった出金の使いみちは、まず聞かれるポイントです。
・通帳や印鑑を渡す側が管理したままの「名義だけの口座」は、名義預金として相続財産と判断されることがあります。
大切なのは「ばれないように渡す」ことではなく、「贈与が成立した記録を残す」ことです。
1. 贈与契約書をつくる(渡す側・もらう側の意思を書面に残す)
2. 振込で渡す(日付と金額の記録が残る)
3. もらった人が自分で管理する(口座・印鑑・使いみちを本人が握る)
この3点がそろっていれば、堂々と説明できる贈与になります。逆にどれかが欠けると、せっかくの贈与が後から否認されるリスクを抱えます。
まとめ
・年110万円の非課税枠は廃止されていない(2026年7月時点)。ただし持ち戻しが7年に延び、駆け込み贈与は効きにくくなった。
・相続時精算課税に新しい非課税枠ができ、「どちらの110万円を使うか」という新しい選択が生まれた。選択は後戻りできないため試算が先。
・「現金手渡しならばれない」は誤解。契約書・振込・本人管理の3点で、記録の残る正しい贈与を。
当事務所にできること
当事務所では、
・ご家族の状況に合わせた贈与プランの試算(暦年贈与と精算課税の比較)
・相続税の試算とあわせた、生前対策全体の組み立て
・贈与契約書の整え方など、記録の残る贈与の実務サポート
をご一緒します。贈与は相続対策の一部です。全体像から考えたい方は、連載第1弾「相続対策、『何から』がわからない方へ」(https://www.tax-naoki-machita-20220901.com/post/inheritance-first-steps)もあわせてどうぞ。
「うちの場合はどちらの110万円?」——試算からお手伝いします。
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※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、特定の税務上の取り扱いや節税効果を保証するものではありません。記載は2026年7月時点の制度にもとづきます。持ち戻し期間の経過措置・各制度の要件など、実際の適用は個別の状況・最新の制度により異なりますので、必ず税理士・専門家にご相談ください。


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